Stereo  Action           動くステレオ

 

  ビクター  「熊蜂は飛ぶ」  動くステレオ  第一集〜 

   LPレコードの紹介です。
レコードが、モノーラル録音からステレオ録音に移った頃、レコード各社は、いろいろ趣向を
凝らしたLPを製作しました。
ビクター  「熊蜂は飛ぶ」  動くステレオ  第一集
レイ・マーチン楽団演奏のこのレコードは、その典型例といってよいでしょう。
演奏楽器が、熊蜂のように、右、左と移動します。
それは、あたかもアンプのバランスコントロール・ツマミを右左と回しているかの様です。
この様なレコードを本気で発売し、ステレオ装置普及に拍車をかけようとしていたのですね。
そして、店頭では、デモレコードとして、しきりに流されたと想像します。
又、興味本位でステレオ装置を購入した人々は、右・左に移動する音を聴いて悦に入って
聴いたり、家族、友人に自慢していたんでしょうか。
ここにLP裏面に書かれた文をそのまま紹介します。

”動くステレオ”とは          青木 啓
ステレオの魅力−それは今までの、いわゆるモノーラル録音では到底味合うことのできぬ、
素晴らしい臨場感の充足です。二つのチャンネルに分離され、左右二つのスピーカーから
流れ出す音響は、さながら実際のステージ演奏に接しているような、生々しい感動と迫力を
生み出します。一度ステレオに接した方が、忽(たちま)ちその魅力のとりことなってしまうのも
無理ではありません。むしろ当然のことでありましょう。
このステレオの魅力を更に拡大し、レコード独自の新分野を創造したのが、
本LP「動くステレオ」であります。
ステレオ録音は、通常3チャンネルで行われているのですが、一般のステレオ・レコードの場合、
真中の音を左右に加え込んだ2チャンネルに整理されているので、大体において音は左右に
固定され分離された状態となっております。ところが、RCAビクターの誇る最高の録音技術陣が
完成した「動くステレオ」はその慣例を破って、ちょうど6乃至8チャンネル録音のシネスコ映画の
音響を思わせる効果を現出しました。文字通り音が左から右、右から左へ動き交錯するという、
まことに驚くべき録音法を行っているのです。
最近のステレオ録音は、再生した場合に、メロディは右、リズムは左から聞こえるというような、
セパレーション方式のものが少なくなり、中央あたりから左右に広がって聞こえるナチュラルな
ステレオ再生効果を狙った録音法が多くなりました。
しかし、「動くステレオ」は、そのいずれにも属さぬユニークな、録音魔術とでも呼びたい新方法と、
もうせましょう
録音の魔術と言えば、その代表的な例はマルチレコーディング(多重録音)です。
1947年にRCAビクターは、当時録音テープの花形として登場した磁気テープを利用し、
名バイオリン奏者ハイフェッツの一人二重奏でバッハの「二つのヴアイオリンのための協奏曲」を
発表、ファンをあっと言わせたことがあります。
しかし「動くステレオ」は、こうしたマルチィ・レコーディングによるものではなく、
チャンネルの操作のみで、作られたものであり、ステレオという新時代のマス・メディアが
持っている可能性を、その極限まで、発揮した注目すべき成果なのであります。
これによって、私たちは、今まで聞くことの出来なかった全然別個の、
音楽の楽しさに接することが出来たのであります。


 
動くステレオ レイ・マーチン楽団
驚異のLP「熊蜂は飛ぶ〜動くステレオ第1集」は、まさに
未知の音楽世界探検とも言うべき大きなスリルと喜びを、
私達に提供してくれます。
しかしこのレコードが、単なるステレオ効果のデモンストレーションに終わることなく、音楽芸術としての高い価値を併せもつことに成功したのは、編曲・指揮者レイ・マーチンのリッパな手腕によるものと言えるでしょう。
レイ・マーチン
1918年10月11日。
オーストリアのウィーンに生まれる。ウイーン国立音楽美術アカデミーにおいてヴァイオリンと作曲法を学び、卒業後間もなくイギリスに渡り、ヴァイオリニストとして活躍。

途中・略

1948年にはBBC放送網を通じてショウやオーケストラの作・編曲・指揮を担当、またミュージカルや映画音楽の分野でも活動し
そのいずれもが、大成功を収めるという多才ぶりを示しました。